「●●選手がウン十億円で移籍」なんてニュース、野球やサッカーなどのメジャーなスポーツでよく耳にします。そしてそのウン億円という年俸に、ため息を禁じえません。もちろんこれは大きな土壌から勝ち上がってきたごく一部の選手のみが手にできる栄光。現状、スケートボード界隈ではお茶の間のニュースになるようなスケーター移籍の話題なんてのは皆無。それでも日々あちらこちらの界隈で起きている「誰それがどこぞのブランドに移籍するらしい」という情報は僕らにとっては大きな関心ごと。
やはりトップの位置で活躍するスケーターほどその動向が注目されることとなりますが、その情報を嗅ぎ付けるスケーターの嗅覚もなかなかのもの。デッキやトラックといったギア、シューズ、アパレルなどはわかりやすく視界に入ってくるわけですが、その情報をキャッチするスケーターの嗅覚の強さといったらもう…。たとえばスマホの小さな画面から判断するわけです、「アレっ、コイツ靴が変わったな、服が変わったな」と。「コイツ無地デッキ乗ってる…どこかに移籍か、自分で何か始めるのか?」と。本人やその近しいところから情報がじわじわ拡散される一方、画面上で見ることができる、一瞬の出来事でも判断されることも少なくありません。そしてその分析も間違っていないことが多い。という意味でも、我々の目線というものはついそこまで鋭く行ってしまうのだから、いいスケーターにスポンサーのオファーが殺到するのもごく自然なことであります。
ひと昔前の話になってしまいますが、個人的にはマーク・ジョンソンのLakaiからadidas Skateboardingへの移籍が記憶に残る大騒動。adidasが発表したフルレングスビデオ『Away Days』にてマーク・ジョンソンのチーム移籍が発表されたかたち。都内でも盛大にプレミアが開催され、外タレのゲスト参加に加え肝心のビデオも素晴らしく大盛況に終わりました。もともとadidasのファンでもあったらしいマーク・ジョンソン、Lakaiからリリースされた自身のモデルにもそれを匂わせるデザインが取り入れられたりしたこともあり、ひとつ喜ばしい出来事だったのかもしれません。しかしその直後にはその移籍をめぐってLakaiのボス、マイク・キャロルが事の顛末を語り「あれは裏切りだった」と非難。そしてChocolateからも除名されることに。圧倒的なスタイル・人気の持ち主であった彼のスキャンダルは瞬く間に世界を震撼させました。
一方で、本来はどこそこのブランドに所属しているはずなのに、ある映像では別のカンパニーのデッキを使っていたり別のアパレルを着ているパターンも見られます。タイミング的なものにせよ、気分的なものにせよ、ホーミー感が伝わってくるほど許される空気があるというか。所属ブランドやチームはまるで違えど、横の繋がりがそれをフラットなものに見せてくれる、そんな瞬間が垣間見れるのもスケートシーンの面白いところだと解釈しています。
─Kazuaki Tamaki(きなこ棒選手)