スケートボードを始めて1年も経たない頃、パイセンにこっそり言われた言葉が今でも記憶に残っています。「誰にも言うなよ。お前にはスケボーの素質がある。だからこのままやり続けろ、そしてまた素質があるヤツ見かけたらそいつにもこっそり伝えてあげて」と。「ソシツって何?」とその言葉の意味すらわからなかったわけですが、「要はスケボーの才能があるってことよ!」と言われ僕は有頂天に。そのパイセンも自分よりスケート歴が半年長いくらいの中坊であり、今思うと「ガキのくせに何を大袈裟なことほざいてんじゃーっ!」とツッコミどころ満載なのですが、完全に鵜呑みにした僕はさらにスケートボードにのめり込み、スキルを磨くのでした。
そこはさすが中学生、ニュートリックの習得は今ほど困難ではなく、トリックひとつ覚えるとその仕組みみたいのが目に見えるかのようで、応用まであまり苦労することなくできちゃったりするんですよね。やがてそんなトリックという武器を持ち始めると披露したくなるってもの。そうなってくると行動範囲は家の近場だけにとどまるワケもなく、ローカルの仲間たちと「あそこにスケーターがいるらしい」と情報を得ては滑りに行くのです。目的はもちろん「道場破り」。足を運んだ先々にて「ここで滑らせてもらってイイですか?」という、ひと昔前ではよく交わされていた挨拶でいったん下手に出つつ、滑りでやり返すってのがやり甲斐。容赦なく攻めまくって相手が体育座りしようもんなら内心ガッツポーズ! っていういかにも中学生のガキな思考ね。当然、逆に遠征先で上手い人たちに打ちのめされることも多々あり、「次見たときは覚えてろよ!」と言わんばかりに地元に帰ってはトリックを真似してみたり、さらなる練習にとっかかる日々でした。
そんな尖ったスケートマインドは年齢とともに丸くなっていくもので、今や日々のスケートは撮影に向けての練習だったり、身体を動かして精神的に満足させるためのものとなりました。いつもと違うスポットだったり、遠征のときもそうなのですが、基本的に「道場破りに行こう」、「あそこのローカルを体育座りさせてやろう」という気持ちはどこかへ消えてなくなりました。「スケボーは勝ち負けじゃない」と言ったら格好がつくのですが、要は毎回どこへ出かけてもヤバいスケーターにコテンパンにされることが圧倒的に多くなってきただけの話(笑)。
しかし僕がやらないようにしていること、それこそが体育座り。どれだけスキルで人と差があろうが難しいパークのセクションに舌を巻こうが、座って見ているだけとなるとそれは自分に負けたと思ってしまう。スケートボードを始めたての頃から変わっていないその考え方は自分の上達にも一役買ってきたのでしょう。しかし案外、自分に素質があるとすればスキル云々じゃなくそういった部分なんじゃないかと、あれから20年近く経った今思うわけですよ。
─Kazuaki Tamaki(きなこ棒選手)